「つむぐ つなぐ」インタビュー

河端さん 42年間「音訳」の活動をしています。(H29.2月)

みなさんは「音訳」という言葉を聞いたことがありますか?

視覚障がいの方に情報を音(声)で伝えることなのですが、その「音訳」のボランティアサークルである新居浜市声の図書室「やまびこ」が活動されている新居浜市ふれあいプラザのボランティア作業室へお邪魔して、河端会長からお話をお伺いしました。

活動内容について・・・・

今、どんな作業をされていますか?

今、「平成29年度声のごみ収集カレンダー」の収録と、その録音内容が入ったテープ、CDの製作をしています。また、愛媛新聞に俳句が週1回掲載されるのですが、それを一カ月分録音する、という毎月の作業をしています。録音できたものは新居浜市障がい者福祉センターや県の視聴覚センターへも送ります。

ほかにはどのようなものを録音していますか?

音訳図書を始め、毎月、市政だよりを録音しています。また、隔月で社協だより、年4回テープマガジン「やまびこ」というテープの雑誌を作っています。作ったものは新居浜市障がい者福祉センターへ渡して、個人の方にお送りする時は障がい者福祉センターの職員が送ってくれています。音訳図書については、同じく障がい者福祉センターの中にある「新居浜市声の図書室」というテープライブラリーに納めており、貸し出しについても障がい者福祉センターからお送りして貸し出ししています。

活動を始めたきっかけは・・・・

河端会長はこの音訳ボランティアを何年ぐらいされているのですか?

私は42年ぐらいですかね。まだカセットテープが世の中に出回りはじめた頃で、その頃はオープンリールの時代でしたが、市政だよりの録音はカセットテープに収録して100巻程度ダビングしてお届けしていました。その頃作業は、市民文化センター別館3階の視聴覚教室の後ろにガラス張りの部屋があって、そこでミキシングをしていました。

音訳ボランティアを始められたきっかけはどういうことからですか?

きっかけは、まず、新聞で見たんですけど、県の事業で“視覚障がい者の方にボランティアで「朗読」をしませんか”という記事でした。その県の講習会に松山市まで通いました。本当に懐かしい思い出ですけれども、講習を受けて、それから市役所に行って、市政だよりをボランティアで録音したいと申し出たことが始めになります。この頃は「ボランティア」という言葉自体も普及していない時代でした。また、「音訳」という言葉自体がなくて「朗読」だった時代でした。

市役所の広報課の方に、私たちもこういうお手伝いをしたいんです、と伝えたら市役所の方も最初はあまりご存じなかったみたいで・・・でも、すごく市のほうが協力的で応援してくださいました。

そのうち、ただ読むというだけではなく、読むための技術というものが求められるようになってきて、市が社協に委託して講習会を持ってくれるようになりました。今では必ずパソコンに入力して作業を行うようになっているので、講習会に来られたみなさんにはパソコンの使い方から勉強してもらっています。

視覚障がい者との交流と「対面音訳」について・・・・

活動をする中で、今までたくさんの方に録音したものをお渡ししてきたと思いますが、視覚障がいの方からの声や反響みたいなものはありますか?

私たちは、当初から活動が一方通行にならないように視覚障がい者のかたのグループと交流をもって、年一回、最近では点訳の会と交互に交流会を行っています。ある時は、山根の運動公園や煙突山等で対面音訳をしました。私たちは常に障がい者と交流することを大切にしてきました。そして、その方たちが何を必要としているのか、お聞きしながら活動しています。

一番最初に感動したことがあるのですが、とにかく最初の頃は本を読んで録音することばかり頭にあったものですから、視覚障がいの方に「どんな本をご希望しますか」とお聞きしましたところ、「今、世の中にどんな本が出ているかも私たちにはわからないんです。」と言われた時にはもうガーンときました。なんて私たちは障がい者の生活を知らなかったんだと、今でもそのことを忘れずに取り組んでいます。

こんなに長く活動しているので、障がい者の方もこの声は誰の声というのがわかってらっしゃるみたいで、市政だよりを聞いてもらった時に「会長さん、今月ちょっと調子が悪いんじゃないですか?」と、声を聴くだけで体調を心配してくださったり気遣ったりしていただいたことがあります。また、録音のお礼に年に一回、視覚障がいの方にマッサージのサービスをしていただいています。この話を全国大会などで別の地域の人に言うと「新居浜はすごいね、そんなに障がい者の方との交流があるんですか」と感心されました。

相互の関係性が生きていますね。

そうですね。私たちは「対面音訳」といって相手が読んでもらいたいものを一対一で読むという活動も行っていますが、大きな都市では障がい者自身が施設等に出向いて読んでもらっているみたいですが、私たちはお家などに二人一組で訪問をして、ご希望のものを読むようにしています。

私がお伺いしたご家庭の話ですが、ご夫婦二人とも全盲のご家族だったのですが、お母様の持ってこられた物を見ると子供さんの学校のドリルとか教材などで、今子供がどんなことを習っているかを知りたいのでちょっと読んでください、と言われ、子を思う母親の心情に感動いたしました。

あと多いものは手紙です。ご家族からの手紙が多いのですが、中には英語で書かれた手紙を読んでください、と言われたこともありました。

次に多かったのは家電製品の説明書が多かったですね。電気釜を買ったんだけども使い方がわからない、とかでした。取扱説明書を読みながら、例えばオーディオなんかでしたらここにボタンがあります、と言いながら手を持っていって確認してもらいながら説明したこともございました。

本当に色々な人がいて目的、考え方、生き方も違うので、私たちは本を読んであげたらいい、というような上から目線ではなくて、生活に密着したところで困ったことのお手伝いができたらいいな、ということを常に心がけています。主婦の方に言われたのは、文学書を聞くことも勉強になるのだけれどもそれよりも例えば毎日、新聞に入っているチラシでどこのスーパーが安いかという情報が本当は必要なんです、とおっしゃっていました。

一方通行の気持ちではなく、お互いが交流をもって気持ちが通じ合うような、人間関係を「つなぐ」ような活動できていますね。

「音訳」と「朗読」の違い・・・・

ところで、何回かお話は出ていたのですが「音訳」と「朗読」の違いについて教えていただけますか?

「朗読」は小説を読み上げることが多いのですが、「音訳」で扱うものは文学に限りません。様々なジャンルの本や雑誌は勿論、新聞、広報、行政の委託資料、取扱説明書、試験問題集、通販カタログ、漫画、写真集など広範囲です。視覚障がいの聞き手の方は、そこに何が書いてあるのか情報が知りたいのです。音訳者はあくまでも「目の代わり」なのです。音訳では聞き手の自由な解釈を邪魔しないよう、音訳者の過剰な解釈は控えて読みます。

難しいですね・・・

「音訳」は、あくまでも「内容を伝える」ためのもので、例えばアナウンサーがニュースを読むときのような読み(アナウンサー読み)です。原本を変えることなく、書いてある通りに、また、文字だけでなく、図表、写真、絵、イラスト等、目で見る全ての情報を声(音声)で表現します。

音訳と朗読の違い

音訳 朗読
聞く人が主体 読む人が主体
情報の伝達(内容を聞く) 鑑賞(読みを聞く)
客観的な読み 主観的な読み
原文を変えない 原文を変えることもある
目で見るすべての情報 文字のみ
特定非営利活動法人 全国視覚障害者情報提供施設協会発行「音訳指導マニュアル」より
聞いてもらっている相手の気持ちを尊重することにつながるんですね。

一冊の本を読んでも十人十色の受け取り方があってそれぞれ違うように、聞いていただいた時にもそのような取り方ができるよう心がけています。

共に歩む気持ちで・・・

「やまびこ」さんのようなボランティア活動をしていることを知らない若い人がたくさんいるとおもうのですが、何か一言ないですか?

市政だよりに小さくではありますが、毎年行われている「技術ボランティア養成講座」の募集が出されているのですが、「音訳」という言葉自体がわからない人が多いのが現状です。講座は4種類あって、「手話講習」、「要約筆記講座」、点字への翻訳の技術は「点訳講座」、私たちは文字を音に変える技術で「音訳講座」なんですが、「音訳」の知名度が低く、もっと沢山の人に知ってもらいたいと思っています。

最後に河端さんによってボランティア活動とはどういうものなのか、一言お願いします。

そうですね・・・決して、視覚障がい者の方にためにしてる、という驕った気持ちではなく、共に歩む、という気持ちでやっていけたらいいなと思っています。

最後に、音訳したものを聞いてくださった視覚障がい者の方々と、声の図書室「やまびこ」を支えてくださった会員の皆様のおかげであるとの感謝の言葉でインタビューは終わりました。